「本人はあまり話すことができないし、たくさんの症状があるのでメモを読みますね。」
気力がない、思考力の低下、物忘れ、しゃべらない、会話が成立しない、表情が無い、顔が白く艶がない、動作が緩慢、反応が鈍い、眠れない、胸の不快感、ほとんど飲食ができない、お腹の膨満感・不快感、体重の減少、お通じがない、ほとんど歩けず立つこともままならない、肌が乾燥し粉をふく、肌が痒い、足のむくみ、頭・首・腰の痛みなど。
以上が付き添いのご家族から伺った症状です。
「病院では重度のうつ病と診断されました。」
飲み薬と貼り薬と塗り薬を合わせた数が、10を超えていることも心配しています。
「今伺った症状は同時に現れましたか? それとも順番に現れましたか? それとも薬が増えるごとに症状が増えましたか?」
「薬が増えるごとに症状が増えたような気がします。」
この方の脈診の結果は、心脾気血両虚証(心血虚+脾気虚)。
脾(胃腸)の働きが低下(脾気虚)すると血を作れなくなり、豊かな血をもとに活動する心(精神やこころ)の働きも低下(心血虚)し、うつ病を発症します。
また心の血に滋養される脾は、心血虚のために健全さを失い脾気虚が進行し、心血虚と脾気虚は絡み合うように心脾気血両虚へ移行し、うつ病は悪化していきます。
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うつ病の方の脈をみていると、うつ病の薬の一部が脾の働きを低下させていることが分かります。
脾の働きが低下すると心脾気血両虚も進行するためうつ病は重症化し、気持ちだけの症状だったのが、様々な虚証(心身の力が低下)の症状が現れます。
また食べられなくなる・お通じが無い・眠れなくなるなどの虚証に対し、それぞれに薬が処方されるとさらに脾は弱っていきます。
このような状態になると、しゃべらない・会話が成立しない・健忘・表情が無い・動作が緩慢・反応が鈍い・活動量の減少・極端な食事量の減少などの強い症状が現れ困難な状態になります。
「食事は一食にうどんを数本食べるのが精一杯で、以前とは全く違う人になってしまいました。今後どのようにすれば良いか分からなくて・・・。」
心脾気血両虚によるうつ病としては、かなり進行していて心配な状態です。
「薬のことを意見する立場にないのですが、もう一度主治医の先生に相談してください。現在の様子と特に治療が始まってからの経過を伝えてください。」
この症例は少し前のものですが、せっかくの薬が心脾気血両虚によるうつ病を悪化させ複雑化させたのではと想像させられます。
最近はこのような極端なことに遭遇することはほぼなくなりましたが、心脾気血両虚の患者さんはうつ病に限らず薬のマイナスの影響が現れやすいことは今も変わりません。
心脾気血両虚は心と脾の力を少しずつ補って、今日より明日、明日よりあさってと、できるだけ症状が後戻りしないように治療を進めることが大切です。
後戻りした時の患者さんの不安はとても強く、その後の経過が大きく変わってしまうことがあります。