薬の服用とともに悪化するうつ病

うつ病の経過が良くなかったため薬の種類が増え、それでも悪いため強い薬に変わった。

「吐き気があってほとんど食べられません。うつ病と診断されてから痩せました。」

主治医には吐き気や食欲がないのは薬の副作用で、初めのうちだけなので心配ないと言われ、それでも症状が続くと今は薬で何とかもっている状態だからやめてはいけないと言われている。

この方のうつ病の正体は、心脾気血両虚証。

脾(胃腸)に問題があり、心(心臓のことで精神が宿る)を養うことができず、うつ病になっている。

脾の問題は考え過ぎ・肉体疲労・運動不足・暴飲暴食などから現れるが、この方は飲食の内容が良くなかった。

脾の働きを弱めるものを主食とし、血の材料になるものを摂っていない。

日々の食事が脾を軟弱にし造血できなくなり、血を頼りに働く心は力を失い、弱った心は精神を不安定にする。

この方はストレスでうつ病になったのではなく、心が弱ったために普通なら何でもないことをストレスと感じてしまい、うつ病になっている。

この点の見極めは、治療を進める上で重要になる。

症状はとても不安定で、家族はこの方と接するときは非常に慎重になっているはずだ。

せっかくの処方だが、脾の問題が根本にあるうつ病の患者さんに、吐き気・食欲不振などの副作用がある薬を長く服用させることは、東洋医学上は大きな問題がある。

脾を強くしなければならないのに、胃腸を弱くしてしまえば治らない。

しかしもう薬をやめることはできない。

心身が薬に依存している。

心の血が不足すると、不安・迷い・不眠・多夢・眩暈・動悸・健忘などが現れるが、これらの症状も、脾の問題が根本にある患者さんは、薬の副作用で増幅してしまう。

うつ病の薬がすべての人に副作用を引き起こすとは考えていないが、脾が弱いと薬の副作用が現れやすく、脾が弱いと薬に依存しやすい。

うつ病を長く患っている方には、脾と薬の副作用を考えて治療を進めると、苦しみから抜け出せる可能性がある。

脾の問題があるうつ病の患者さんには、薬の選択と量は特に慎重に決めるべきと考えるが、実際にはそうでないことが多いようだ。

精神の乱れが現れる心脾気血両虚証は、その成り立ちがどのようになっているかによって治療法が異なる。

もとが心の変化から発生しているのか、脾の変化から発生しているのか、気の不足と血の不足のどちらがもとなのかによって、治療の進め方が変わってくる。

この方は薬のマイナスの影響が強いため、治療は少し長くなりそうだ。