二年間ひきこもった女性

「うつ病と診断され薬を飲みながら家で休んでいましたが、そのうちに通院しなくなり部屋から出てこなくなりました。」

医師も全く会うことができないので、細かな治療ができないと困っていたようだ。

「それからずっと二階の部屋にこもったきりで、もう二年も顔を見ていません。きっかけは仕事のことや家庭内のことがいろいろあって・・・。」

食事は母親が二階の部屋の前に置き一階に下りると、ドアが開き部屋に持ち込んで食べている。

トイレも部屋で済ませ、汚物は夜中にトイレに流している。

雨戸は閉まったままで、これ以上の様子は分からない。

「この二年間いろいろな所で相談をして、うつ病やひきこもりと言われました。こんな生活が長くなって、何が何だか分からなくなってきました。」

ひきこもりの定義や精神疾患との関係は西洋医学で説明されているが、それをもとに東洋医学の治療はできない。

ひきこもりのきっかけは様々だが、同じ状況でもこのような状態になる人とならない人がいる。

その違いを見極めることが東洋医学の診断だ。

妊娠中・出産後のお母さんの体調や食事、生まれてからひきこもるまでの娘さんの成長・体調・食事、娘さんの写真(望診)を頼りに心身を診断する。

荒っぽい診断法に思えるが、それぞれが役に立ち、会えない娘さんの様子がぼんやりと見えてくる。

写真は、痩せ気味だが全体にごく薄い浮腫があり、少しあごが前に出て猫背で下腹部が出た様子がある。

上まぶたは下垂し、若いがほうれい線が深い。

全体の肌は白く軟らかそうだが、顔色はくすんで唇は暗色だ。

「お嬢さんの声は低いですか?」

「そう言われると低いですね。娘のお友達と比べても確かに低いと思います。」

望診と母親から伺った話を総合し、中気下陥と診断する。

飲食物を消化・吸収する力と栄養を巡らせる力がない状態で、特に栄養を上へ押し上げる力がなく、慢性的な頭の栄養不足になっている。

また巡らないということは気滞を併発しやすく、中気下陥(頭の栄養不足)も気滞も、気持ちが衰えていく。

「疲れやすく元気のない子なので、できるだけお肉や乳製品など栄養のあるものを食べさせていました。」

中気下陥は胃腸虚弱が根本にあるので、滋養のあるものは消化できず、さらに胃腸が弱り症状が悪化する。

中気下陥は無力感・倦怠感・息切れ・めまい・頭が重い・話すのがおっくう・食欲不振・内臓下垂などが現れる。

やらないといけないことは分かっていても、気力・体力がもたず瞬時の判断も鈍く、勉強や仕事がはかどらない。

周りからはさぼっているなどと注意されたり叱られたりして、人間関係も上手くいかない。

関係を修復しようとしても、心身ともに力がでないのでどうにもならない。

中気下陥の症状は検査結果に現れないため、はっきりした病名がつきにくく、周囲の理解も得られない。

また心療内科の病名がつくと、家族の側が恐る恐る接するようになり、距離が生まれお互いに困ってしまう。

私も娘さんに会うことはできなかったが、唯一つながっているのは母親が作る食事だ。

診断をもとに母親と一緒に、娘さんの好みも考えながら献立を考える。

食事は心身を変える。

まずはここからだ。

このような方を診るのは始めてではないが、どなたも顔を見るまでに時間がかかり、この娘さんもそうだった。

その後もひとつひとつに時間が必要だったが、今は立派な社会人として働き、普通の生活を送っている。

この方の誠実さを目の前にするようになってからは、その誠実さを見習い学ぶようにしている。