「毎日夕方の同じ時間に激しく咳き込みます。必ず退社する15分ほど前で、5分くらいで治まりますがとても苦しいです。いくつかの病院で検査してもらいましたが問題ないと言われ、呼吸器の有名な先生にも診てもらいましたが、薬を減らしたり弱いものに変えるとすぐに咳が出てしまうので、咳止めの強い薬が手放せません。漢方薬も使っています。」
「いつからですか?」
「もう一年以上続いています。退社時間が近づくと咳が心配で、気持ちが不安定になります。それで心療内科も紹介され診てもらっています。」
顔は赤く乾燥気味だが、他の肌はしっとりして冷たい。
「冷えを感じますか?」
「はい。冷え症です。」
「汗はどうですか?」
「寒がりなのに少し動くと汗が出ます。周りの誰も汗をかいていなくても、私だけ汗が出ることがあります。」
「夜間のお小水は?」
「多いです。続けて出ることもあります。」
「今回の症状が現れる前に、息が吸いにくいことはなかったですか?」
「ありました。そのときは心療内科で診てもらい、パニック障害の疑いがあると言われました。西洋薬と漢方薬の両方を飲んでいましたが良くならず、そのうちに咳が出始めました。」
脈診の結果は腎不納気。
パニック障害の疑いがあると言われた時点で、すでに陽虚型の腎不納気(息が吸いにくい)であった。
通常の呼吸は肺が行い、深く息を吸い込むのは腎の力が行う。
腎の力が衰えると息が深く吸えない。
それが腎不納気。
この状態でも咳はでるが、この方の咳は違う。
腎不納気(陽虚型)であれば顔色が青白いはずだが、長く腎不納気(陽虚型)を見逃していたため陰虚(陽が弱れば陰も弱る)が現れ虚熱が発生し、この熱のために顔は赤くなり潤いが不足する。
虚熱は午後から強くなるので、夕方には強い虚熱に肺が襲われ、退社時間の激しい咳になってしまった。
咳をしたくない、会社のみんなに迷惑を掛けたくない、というストレスがさらに熱を強くし激しく咳き込んでしまう。
昨日は退社時間に咳が出たから今日もそうかと思うストレスが、退社時間に特に熱を強くし同じ時刻に咳き込んでしまう。
この場合はストレスを第一に考えた漢方薬では治らない。
根本原因は腎でありストレスは2番目3番目の原因だ。
息が吸いにくい症状も激しい咳も原因は腎にある。
苦しく難治な症状にはとにかく正確な診断が必要だ。
この方は長く症状が続いたため仕事に支障がでて、周りの目も気になりつらい立場に置かれている。
一にも二にも正確に診断し、ていねいに治療を進める。