肌は薄くなり萎縮して血管が見える。
キメが粗く乾燥している。
色は薄暗く肥厚しているところもある。
多くはないが細かい落屑もある。
「痒みはまだありますが、以前より良くなりました。アトピーは子供のころからで良いときもありましたが、20代からまた悪化しました。今はひどい時と比べ、赤み・熱感・出血・滲出液が落ち着いています。」
「夜間の痒みはどうですか?」
「日中は良くなりましたが、夜中の痒みはまだ強いです。」
脈を診ると身体の中の津液(水)が不足し、陰虚(水不足)による燥風(乾燥と痒み)が起こっている。
血虚(血の不足)の期間が長すぎて、血だけでなく水も不足しているのだ。
「実は先日病院で診てもらったら、ステロイドの副作用だと言われました。でもステロイド剤は子供のときと20代の一時期使っただけで、もう10年以上使っていません。」
ステロイド剤を長く使えば、ステロイド皮膚症になることがある。
しかし使わなくても同じ症状が起こる。
それがこの方の陰虚燥風によるアトピー性皮膚炎である。
ステロイド剤は津液(水)を消耗し陰虚を起こす代表的な薬だが、ステロイド剤を使わなくても身体の質や生活・飲食の問題で陰虚になる。
病院で癌の治療をしている方も診ているが、ステロイド剤に限らずとても強い薬や治療法は陰虚を起こす。
原因が違っても、陰虚になれば似た症状が現れる。
薬の種類によって気血両虚や血オなどいろいろな副作用が起こるので、薬の特徴を東洋医学的に知っておく必要がある。
「症状は落ち着いてきているように見えますが、乾燥するアトピーとしては最も進んだ状態です。」
「えっ?」
「身体の中の液体が枯渇して、肌は弾力を失い薄くなっています。この状態では、ちょっと何かに触れただけでも肌が傷ついてしまいます。」
「そうなんです。でも見た目が以前より落ち着いてきたので、良くなっていると思っていました。」
「はじめは水を増やし、次に血を増やすように生活してください。治療も水と血を増やし、それを維持できるように行ないます。」
陰虚燥風とその治療と養生を詳しく説明する。
「最も進んでいると聞いてびっくりしましたが、私の肌の状態がよく理解できました。それと何をすれば良いか分かったので続けてみます。」
この方の場合は、ステロイド剤を長期間使っていないので例外であるが、実際にステロイド剤を使っていてステロイド皮膚症と診断されても、本当にステロイド剤が原因なのか、身体の質や生活・飲食の問題でなったのか、両方が重なっているのか見極めが必要である。
ステロイド剤が原因でなければ、ステロイドをやめてもただ苦しい状態が続き、心身ともに疲れ果てまたステロイド剤を使うことになる。
再度使うことになった時の気持ちは、非常に複雑でつらいものだ。
脱ステロイドを行なってどうにもならなくなった方を何人も診ていると、簡単にステロイド皮膚症や脱ステロイドと言ってはいけないと強く感じる。
またもともとの体質が陰虚の人は、ステロイド剤の副作用が現れやすいので、とにかくしっかりとした診断が必要である。
それにしてもステロイド剤を使っていないのに、ステロイド皮膚症と診断されたら、治療はどのようにするのだろうか。